衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2021年4月)
ここでは、2021年(令和3年)4月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第1種衛生管理者、特例第1種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第2種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2021年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2021年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2021年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2021年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2021年4月)
問11 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に基づくリスクアセスメントに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)リスクアセスメントは、化学物質等を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき、化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するときなどに実施する。
(2)化学物質等による危険性又は有害性の特定は、リスクアセスメント等の対象となる業務を洗い出した上で、原則として国連勧告の「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」などで示されている危険性又は有害性の分類等に即して行う。
(3)リスクの見積りは、化学物質等が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は化学物質等により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)及び当該危険又は健康障害の程度(重篤度)を考慮して行う。
(4)化学物質等による疾病のリスクについては、化学物質等への労働者のばく露濃度等を測定し、測定結果を厚生労働省の「作業環境評価基準」に示されている「管理濃度」と比較することにより見積もる方法が確実性が高い。
(5)リスクアセスメントの実施に当たっては、化学物質等に係る安全データシート、作業標準、作業手順書、作業環境測定結果等の資料を入手し、その情報を活用する。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。このような方法は規定されていません。
健康障害に係るリスクの見積もるには、対象の業務について作業環境測定等により測定した作業場所における化学物質等の気中濃度等を、当該化学物質等のばく露限界(日本産業衛生学会が定めた許容濃度)と比較する方法などがあります。
問12 次の化学物質のうち、常温・常圧(25℃、1気圧)の空気中で蒸気として存在するものはどれか。
ただし、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)塩化ビニル
(2)ジクロロベンジジン
(3)トリクロロエチレン
(4)二酸化硫黄
(5)ホルムアルデヒド
(1)は誤り。塩化ビニルは、ガスとして存在します。
(2)は誤り。ジクロロベンジジンは、粉じんとして存在します。
(3)は正しい。トリクロロエチレンは、有機溶剤の一種で、空気中で蒸気として存在します。
(4)は誤り。二酸化硫黄は、ガスとして存在します。
(5)は誤り。ホルムアルデヒドは、ガスとして存在します。
問13 有機溶剤に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)有機溶剤は、呼吸器から吸収されやすいが、皮膚から吸収されるものもある。
(2)メタノールによる障害として顕著なものは、網膜細動脈瘤(りゅう)を伴う脳血管障害である。
(3)キシレンのばく露の生物学的モニタリングの指標としての尿中代謝物は、メチル馬尿酸である。
(4)有機溶剤による皮膚又は粘膜の症状としては、皮膚の角化、結膜炎などがある。
(5)低濃度の有機溶剤の繰り返しばく露では、頭痛、めまい、物忘れ、不眠などの不定愁訴がみられる。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。メタノールによる健康障害には、視力の低下、視野狭窄(さく)、失明などの視神経障害があります。
問14 局所排気装置のフードの型式について、排気効果の大小関係として、正しいものは次のうちどれか。
(1)囲い式カバー型>囲い式建築ブース型>外付け式ルーバ型
(2)囲い式建築ブース型>囲い式グローブボックス型>外付け式ルーバ型
(3)囲い式ドラフトチェンバ型>外付け式ルーバ型>囲い式カバー型
(4)外付け式ルーバ型>囲い式ドラフトチェンバ型>囲い式カバー型
(5)外付け式ルーバ型>囲い式建築ブース型>囲い式グローブボックス型
一般に、フードを吸引効果の高い順番に並べると、
①囲い式カバー型フード
②囲い式グローブボックス型フード
③囲い式ドラフトチェンバ型フード
④囲い式建築ブース型フード
⑤外付け式側方吸引型・下方吸引型フード
⑥外付け式上方吸引型フード
⑦レシーバ式フード
となります。
問15 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)窒素ガスで置換したタンク内の空気など、ほとんど無酸素状態の空気を吸入すると徐々に窒息の状態になり、この状態が5分程度継続すると呼吸停止する。
(2)減圧症は、潜函(かん)作業者、潜水作業者などに発症するもので、高圧下作業からの減圧に伴い、血液中や組織中に溶け込んでいた窒素の気泡化が関与して発生し、皮膚のかゆみ、関節痛、神経の麻痺(ひ)などの症状がみられる。
(3)金属熱は、金属の溶融作業などで亜鉛、銅などの金属の酸化物のヒュームを吸入することにより発生し、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)低体温症は、低温下の作業で全身が冷やされ、体の中心部の温度が35℃程度以下に低下した状態をいい、意識消失、筋の硬直などの症状がみられる。
(5)振動障害は、チェーンソーなどの振動工具によって生じる障害で、手のしびれなどの末梢(しょう)神経障害やレイノー現象などの末梢循環障害がみられる。
(1)は誤り。酸素濃度が10%以下で意識消失や窒息、けいれんなどが生じ、6%以下では一呼吸(瞬時に)で失神し、呼吸が停止し、死亡することがあります。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問16 じん肺に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)じん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた炎症性病変を主体とする疾病で、その種類には、けい肺、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがある。
(2)じん肺は、続発性気管支炎、肺結核などを合併することがある。
(3)鉱物性粉じんに含まれる遊離けい酸(SiO2)は、石灰化を伴う胸膜肥厚や胸膜中皮腫を生じさせるという特徴がある。
(4)じん肺の有効な治療方法は、既に確立されている。
(5)じん肺がある程度進行しても、粉じんへのばく露を中止すれば、症状が更に進行することはない。
答え(2)
(1)は誤り。じん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病です。その種類には、けい肺、石綿肺などがあります。
また、間質性肺炎とは、薬剤や異物の吸入によって、肺胞の壁に炎症が起こり、その壁が厚く硬く線維化し、ガス交換がうまくできなくなる病気です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺胞どうしがくっ付いてしまい息切れ等が起こる肺気腫や咳と痰等を伴う慢性気管支炎のことをいい、長期間の喫煙によって発症することが多いです。なお、COPDは、英語病名のChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの頭文字を取ったものです。
(2)は正しい。
(3)は誤り。石綿粉じんは、胸膜に肥厚な石灰化を生じ、また、肺がんや胸膜中皮腫という悪性腫瘍を起こすおそれがあります。
(4)は誤り。現在、じん肺の治療方法は、確立されていません。
(5)は誤り。じん肺がある程度進行すると、粉じんへのばく露を中止しても、肺の線維化が進行する性質があります。
問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)ノルマルヘキサンによる健康障害では、末梢(しょう)神経障害がみられる。
(2)シアン化水素による中毒では、細胞内での酸素利用の障害による呼吸困難、痙攣(けいれん)などがみられる。
(3)硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺(ひ)などがみられる。
(4)塩化ビニルによる慢性中毒では、気管支炎、歯牙酸蝕(しょく)症などがみられる。
(5)弗(ふっ)化水素による慢性中毒では、骨の硬化、斑状歯などがみられる。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。塩化ビニルによる中毒では、指の骨の溶解、がんの一種である肝臓の血管肉腫などがみられます。
問18 呼吸用保護具に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)有機ガス用防毒マスクの吸収缶の色は黒色であり、一酸化炭素用防毒マスクの吸収缶の色は赤色である。
(2)ガス又は蒸気状の有害物質が粉じんと混在している作業環境中で防毒マスクを使用するときは、防じん機能を有する防毒マスクを選択する。
(3)酸素濃度18%未満の場所で使用できる呼吸用保護具には、送気マスク、空気呼吸器のほか、電動ファン付き呼吸用保護具がある。
(4)使い捨て式防じんマスクは、面体ごとに、型式検定合格標章の付されたものを使用する。
(5)防じんマスクは、面体と顔面との間にタオルなどを当てて着用してはならない。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。ろ過式保護具である防じんマスク、電動ファン付き呼吸用保護具および防毒マスクは、いずれも酸素濃度が18%未満の場所では使用してはなりません。
問19 厚生労働省の「作業環境測定基準」及び「作業環境評価基準」に基づく作業環境測定及びその結果の評価に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)管理濃度は、有害物質に関する作業環境の状態を単位作業場所の作業環境測定結果から評価するための指標として設定されたものである。
(2)原材料を反応槽へ投入する場合など、間欠的に有害物質の発散を伴う作業による気中有害物質の最高濃度は、A測定の結果により評価される。
(3)単位作業場所における気中有害物質濃度の平均的な分布は、B測定の結果により評価される。
(4)A測定の第二評価値及びB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない単位作業場所は、第一管理区分になる。
(5)B測定の測定値が管理濃度を超えている単位作業場所は、A測定の結果に関係なく第三管理区分に区分される。
(1)は正しい。
(2)は誤り。原材料を反応槽へ投入する場合など、間欠的に有害物質の発散を伴う作業による気中有害物質の最高濃度は、B測定の結果により評価されます。
(3)は誤り。単位作業場所における気中有害物質濃度の平均的な分布は、A測定の結果により評価されます。
(4)は誤り。A測定の第一評価値およびB測定の測定値がいずれも管理濃度に満たない場合は、第一管理区分となります。
(5)は誤り。B測定の測定値が管理濃度の1.5倍を超えている場合は、A測定の結果に関係なく第三管理区分となります。
問20 有害化学物質とその生物学的モニタリング指標として用いられる尿中の代謝物等との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
(1)鉛 ………… デルタアミノレブリン酸
(2)スチレン ………… メチルホルムアミド
(3)トルエン ………… 馬尿酸
(4)ノルマルヘキサン ………… 2,5-ヘキサンジオン
(5)トリクロロエチレン ………… トリクロロ酢酸
答え(2)
(1)(3)(4)(5)は正しい。
(2)は誤り。スチレンを取り扱う労働者の健診項目として、尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定があります。
なお、尿中のN-メチルホルムアミドの量の検査は、N,N-ジメチルホルムアミドを取り扱う労働者の健診項目です。
▼「特殊健康診断」について法改正がありました。
例えば、特化則に規定されるスチレンの検査項目は、下記の通り改正されています。
【改正前】尿中のマンデル酸の量の測定
【改正後】尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定
施行日は令和2年7月1日です。
また、特化則以外にも、有機則、鉛則、四アルキル則についても改正されています。
各規則が制定されてから40年以上が経ち、健康障害に関する事情が変わってきたため、大幅に変更されました。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【参考】化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました(令和2年7月1日 施行)
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