衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2016年4月)
ここでは、2016年(平成28年)4月公表の過去問のうち「労働衛生:有害(有害業務に係るもの)」の10問について解説いたします。
この過去問は、第一種衛生管理者、特例第一種衛生管理者の試験の範囲です。
なお、第二種衛生管理者試験の範囲には含まれません。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:有害(2016年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:有害(2016年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:関係法令:一般(2016年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働衛生:一般(2016年4月)
◆衛生管理者の過去問の解説:労働生理(2016年4月)
問11 化学物質等による疾病のリスクの低減措置を検討する場合、次のアからエの対策について、優先度の高い順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
ア マニュアルの整備等の管理的対策
イ 有害性の高い化学物質等の使用の中止
ウ 化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の労働衛生工学的対策
エ 個人用保護具の使用
(1)ア-イ-ウ-エ
(2)ア-イ-エ-ウ
(3)イ-ア-エ-ウ
(4)イ-ウ-ア-エ
(5)エ-ア-イ-ウ
化学物質等によるリスク低減措置の検討及び実施の方法としては、法令に定められた事項を確実に行った上で、労働安全衛生の効果が高いものから順に検討を行います。効果が高いものから次のように考えられています。
①危険・有害性の高い物質の使用中止、又はより低い物への代替化など
②反応過程の運転条件の変更などによる負傷が生じる可能性又はばく露の低減
③工学的対策(機械設備などの密閉化、局所排気装置の設置、防爆構造化、安全装置の二重化など)
④管理的対策(マニュアルの整備、ばく露管理、立ち入り禁止措置など)
⑤個人用保護具の使用
問12 有害物質とその常温・常圧(25℃、1気圧)の空気中における状態との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
ただし、ガスとは、常温・常圧で気体のものをいい、蒸気とは、常温・常圧で液体又は固体の物質が蒸気圧に応じて揮発又は昇華して気体となっているものをいうものとする。
(1)ホルムアルデヒド ・・・・・・ ガス
(2)ジクロルベンジジン ・・・・・ ガス
(3)硫酸ジメチル ・・・・・・・・ 蒸気
(4)アセトン ・・・・・・・・・・ 蒸気
(5)水銀 ・・・・・・・・・・・・ 蒸気
(2)は誤り。ジクロルベンジジンは、固体物質で空気中では『粉じん』として存在し、黄色系の印刷用インクの原料として使用されています。発がん性があり、製造するためには、厚生労働大臣の許可が必要な物質です。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
問13 有害化学物質に関する次の文中の[ ]内に入れるA及びBの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「消毒や漂白などに用いられる次亜塩素酸塩溶液と、洗浄や水処理などに用いられる[ A ]溶液が混触すると、人体に有害な[ B ]ガスが発生し、中毒を起こすことがある。」
(1)[A]アルカリ性 [B]塩化ビニル
(2)[A]酸性 [B]塩素
(3)[A]アルカリ性 [B]塩化水素
(4)[A]酸性 [B]塩化ビニル
(5)[A]アルカリ性 [B]塩素
『次亜塩素酸塩溶液 + 酸性溶液 = 塩素ガス発生!』です。
このような塩素ガス発生による労働災害は、清掃業、旅館業、プール施設などで起こっています。
家庭にある、塩素系漂白剤と酸性洗剤を混ぜても、塩素ガスが発生するので注意が必要です。
問14 作業環境における騒音及びそれによる健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)騒音性難聴は、騒音により内耳の前庭や半規管の機能に障害を受けたことにより生じる。
(2)騒音性難聴は、初期には気付かないことが多く、また、治りにくいという特徴がある。
(3)騒音レベルの測定は、通常、騒音計の周波数補正回路のA特性で行い、その大きさはdB(A)で表示する。
(4)騒音性難聴の初期に認められる4,000 Hz付近の音から始まる聴力低下の型をC5dipという。
(5)等価騒音レベルは、時間的に変動する騒音レベルのエネルギー的な平均値を表す量で、変動する騒音に対する人間の生理・心理的反応とよく対応している。
(1)は誤り。騒音性難聴は、内耳の『蝸牛』にある有毛細胞が障害を受けることにより発生します。蝸牛は「かぎゅう」と読みます。
(2)は正しい。騒音性難聴では、通常の会話音域より高い音から聞こえにくくなるため、症状が軽度の場合は気付かないことが多いのです。
(3)は正しい。A特性の他にもC特性や平坦特性があります。
(4)は正しい。Hz(ヘルツ)は音の高さをあらわす単位です。一般的な日本人の会話音域は、500 Hzから2,000 Hz程度です。騒音性難聴では、私たちの会話音域より高い音から聞こえが悪くなります。
(5)は正しい。騒音は常に変動して一定ではありません。ですから、騒音の測定には等価騒音レベルを用います。
問15 金属などによる健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)金属水銀中毒では、感情不安定、幻覚などの精神障害や手指の震えなどの症状・障害がみられる。
(2)鉛中毒では、骨の硬化、斑状歯などの症状・障害がみられる。
(3)マンガン中毒では、筋のこわばり、震え、歩行困難などのパーキンソン病に似た症状・障害がみられる。
(4)カドミウム中毒では、上気道炎、肺炎、腎障害などの症状・障害がみられる。
(5)砒(ひ)素中毒では、角化症、黒皮症などの皮膚障害、末梢神経障害などがみられる。
(2)は誤り。鉛中毒では、貧血、伸筋マヒなどの末梢神経障害、腹部の疝(せん)痛があります。なお、骨の硬化、斑状歯(歯に白色、褐色のシミができる)は、フッ化水素による慢性中毒で起こります。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
問16 作業環境における有害要因による健康障害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)電離放射線の被ばくによる発がんと遺伝的影響は、確率的影響に分類され、発生する確率が被ばく線量の増加に応じて増加する。
(2)熱虚脱は、暑熱環境下で脳へ供給される血液量が増加したとき、代償的に心拍数が減少することにより生じ、発熱、徐脈、めまいなどの症状がみられる。
(3)金属熱は、金属の溶融作業において、高温環境により体温調節中枢が麻痺(ひ)することにより発生し、長期間にわたる発熱、関節痛などの症状がみられる。
(4)凍瘡(そう)は、皮膚組織の凍結壊(え)死を伴うしもやけのことで、0℃以下の寒冷にばく露することによって発生する。
(5)潜水業務における減圧症は、浮上による減圧に伴い、血液中に溶け込んでいた酸素が気泡となり、血管を閉塞したり組織を圧迫することにより発生する。
(1)は正しい。電離放射線の被ばくによる影響は、放射線防護の観点から『確率的影響』と『確定的影響』に分類されます。『確率的影響』では発生確率が被ばく線量の増加に応じて増加しますが、『確定的影響』では発生確率と症状の程度が被ばく線量の増加に応じて増加します。
(2)は誤り。熱虚脱は、暑熱環境下で脳へ供給される血液量が『減少』したときに起こり、脈拍が速くなり、めまい、血圧低下、失神などの症状がみられます。
(3)は誤り。金属熱には、「熱」という字が入っていますが、熱中症などの体温調節中枢の障害ではありません。金属熱は、金属の溶解時に発生するヒュームを吸入した後に生じる疾病で、悪寒、発熱、関節痛などの症状がみられますが、発症から数時間後には快復します。
(4)は誤り。凍瘡とは、日常生活内でも発生するしもやけのことです。皮膚組織の凍結壊死が伴う症状は、凍傷と言われます。
(5)は誤り。減圧症は、減圧に伴い、血液中に溶け込んでいた『窒素』が気泡となり、血管を閉塞したり組織を圧迫することにより発生します。
問17 化学物質と、それにより発症するおそれのある主たるがんとの組合せとして、正しいものは次のうちどれか。
(1)ベンゼン ・・・・・・・・・・・・・・ 白血病
(2)ベンジジン ・・・・・・・・・・・・・ 胃がん
(3)ビス(クロロメチル)エーテル ・・・・ 膀(ぼう)胱(こう)がん
(4)コールタール ・・・・・・・・・・・・ 肝血管肉腫
(5)石綿 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 皮膚がん
(1)は正しい。ベンゼンは、造血機能に障害を起こすことで知られています。白血病とはいわゆる血液のがんです。
(2)は誤り。ベンジジンは、膀胱がんを発症させます。
(3)は誤り。ビス(クロロメチル)エーテルは、肺がんを発症させます。
(4)は誤り。コールタールは、肺がんや皮膚がんを発症させます。
(5)は誤り。石綿は、肺がんや胸膜中皮腫という悪性腫瘍を発症させます。
問18 局所排気装置の基本的な構成に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「局所排気装置は、有害物の発生源の近くにフードを設けて定常的な吸引気流をつくり、有害物が拡散する前に吸引除去するものであり、空気清浄装置を付設した場合の基本的な構成は、発生源の側から順に次のとおりである。
フード → 吸引ダクト(枝ダクト → 主ダクト)→[ A ]→[ B ]→[ C ]→排気口」
(1)[A]ファン [B]空気清浄装置 [C]排気ダクト
(2)[A]排気ダクト [B]空気清浄装置 [C]ファン
(3)[A]空気清浄装置 [B]ファン [C]排気ダクト
(4)[A]ファン [B]排気ダクト [C]空気清浄装置
(5)[A]排気ダクト [B]ファン [C]空気清浄装置
まず、汚染空気は『フード』から吸引され、連結されている『吸引ダクト(枝ダクトから主ダクトへ)』を通ります。
吸引ダクトは『空気清浄装置』につながっており、ここで汚染空気の有害物が除去された後、動力源である『ファン』を通って『排気ダクト』へ運ばれ、最終的に『排気口』から屋外に空気が排出されます。
問19 労働衛生保護具などに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)電動ファン付き呼吸用保護具は、電動ファンにより有害物質を含む空気を拡散して呼吸域から除去する呼吸用保護具である。
(2)送気マスクは、清浄な空気をパイプ、ホースなどにより作業者に供給する呼吸用保護具である。
(3)防じんマスクは、面体と顔面との間にタオルなどを当てて着用してはならない。
(4)防毒マスクは、顔面と接する部分が適切な位置に収まるよう装着し、しめひもについては、耳にかけることなく、後頭部において固定する。
(5)保護クリームは、作業中に有害な物質が直接皮膚に付着しないようにする目的で塗布するものである。
(1)は誤り。電動ファン付き呼吸用保護具は、環境空気中に浮遊する粉じん、ミスト、ヒューム等の粒子状物質をフィルターによって除去し、清浄化した空気を電動ファンにより作業者に給気する呼吸用保護具です。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問20 特殊健康診断に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「特殊健康診断における有害物の体内摂取量を把握する検査として、代表的なものが生物学的モニタリングである。
有機溶剤の場合は生物学的半減期が[ A ]ので、有機溶剤等健康診断における[ B ]の量の検査においては、[ C ]の時刻を厳重にチェックする必要がある。」
(1)[A]短い [B]有機溶剤代謝物 [C]採尿
(2)[A]長い [B]有機溶剤代謝物 [C]採血
(3)[A]短い [B]有機溶剤代謝物 [C]採血
(4)[A]長い [B]尿中蛋白 [C]採尿
(5)[A]短い [B]尿中蛋白 [C]採尿
有機溶剤の生物学的半減期は、数時間から1日程度と短いのが特徴です。ちなみに、生物学的半減期とは、体内へ吸収された化学物質が、体外へ排泄されていくとき、体内での濃度が最初の50%に減少するまでに要する時間を言います。
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